三菱自動車では、平成8年度から運輸省の主導する第2期(*1)ASV(*2)プロジェクトに積極的に取り組み、この程、従来から培ってきた安全技術の開発ノウハウを駆使し、21世紀の実用化技術を集約した「三菱 ASV−2 トラック」を開発した。
三菱自動車トラック・バスの開発は、「安全」「環境」「効率」を基本理念として取り組んでいる。大型車の場合、車両寸法や重量が大きいため、事故発生時には自身の被害性のみならず、相手側への加害性も大きなものとなることから、「三菱 ASV−2 トラック」には、ドライバーへの安全情報提供と運転負荷軽減を目的とする"予防安全技術"に主眼を置いたシステムを数多く搭載した。
第2期ASVプロジェクトでは、第1期に乗用車で培った技術を大型車へも反映した。一方、市販の大型車において実用化可能なASV技術は、これまでに三菱ふそうトラック・バスにいち早く商品化してきた。
また今回開発した「三菱 ASV−2 トラック」は、21世紀に実用化予定である道路インフラからの各種情報を利用した走行支援システムも搭載し、現在運輸省・建設省共催の共同実証実験「スマートクルーズ21」に参画、本年11月末には茨城県つくば市において実施予定の公開デモンストレーション「スマートクルーズ21−DEMO2000」に参加予定である。
*1 |
第2期:平成8年度〜12年度の5ヶ年で乗用車に加えてトラック・バスも本格開発
(第1期:平成3年度〜7年度の5ヶ年に主に乗用車を開発) |
*2 |
ASV:Advanced Safety Vehicle 先進安全自動車 |
三菱 ASV−2 トラック
(ベース車:ふそう大型トラック スーパーグレート)
1.三菱 ASV−2 トラック に搭載した先進安全技術
技術
分類
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ASVにおける装置名
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当社システム名
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実用
化済
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新規
開発
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予防安全技術 |
居眠り警報装置 |
MDAS−II(運転注意力モニター) |
○
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車線逸脱警報装置 |
後写鏡視界確保装置 |
ワイパー&ヒーター付ミラー |
○
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高輝度前照灯 |
ディスチャージヘッドランプ |
○
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配光可変型前照灯 |
配光制御ヘッドランプ |
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○
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路側からの情報を利用した
前方障害物情報提供・警報装置 |
前方障害物衝突防止支援システム |
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○
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路側からの情報を利用したカーブ情報提供・進入危険速度警報装置 |
カーブ進入危険防止支援システム |
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○
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電子制御変速制御装置 |
INOMAT(ファジィ制御機械式オートマチックトランスミッション) |
○
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車間距離制御機能付定速走行装置 |
車間距離制御オートクルーズ
(補助ブレーキによる車速制御)
(主ブレーキによる車速制御) |
○
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○
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停止保持補助装置 |
イージーゴー(EZGO:坂道発進補助装置) |
○
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事故回避技術 |
車両挙動制御装置 |
車両挙動制御システム |
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○*
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先行車運転情報利用制動・操舵装置 |
自動追従走行システム(コンボイシステム) |
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○*
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全自動運転技術 |
自律型自動運転装置 |
新規インフラ利用専用道自動運転装置 |
衝突安全技術 |
車両前面突入軽減装置 |
フロントアンダーランプロテクタ |
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○
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プリテンショナーシートベルト |
プリテンショナーシートベルト |
○
|
|
エアバッグ |
エアバッグ |
○
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車両基盤技術 |
デジタルタコグラフ |
Fuso Total Support System(三菱ふそうトータルサポートシステム) |
○
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ヒューマンインターフェース基盤技術 |
VOIS(多重表示&音声警報システム) |
○
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*別の試験車で開発・試験を行った為、今回のASV−2トラックには未搭載
2.主要装備
先行車及び道路の白線を認識するカメラ、先行車との車間距離を検出するスキャン式レーザーレーダー、各種センサー、ドライバーへの各種情報提供/警報装置、運転そのものを支援するアクチュエーターなど、低コストで信頼性の高い装備を採用している。また、スマートクルーズ21に対応するための路車間通信器、基点マーカーセンサー等も搭載している。
3.主要搭載技術
(1)予防安全技術
事故発生状況を分析した結果から、大型車においては特に夜間走行頻度の多い長距離輸送トラックドライバーの危険予知を支援し、安全情報を提供するシステムや、ドライバーの運転注意力低下に伴う事故を予防するための警報システム、運転疲労を軽減するシステムが有効であると判断し、これらを実現するシステム開発を推進している。また、車両単独での安全性向上に加え、インフラからの情報を利用した予防安全技術の開発にも取り組んでいる。
●MDAS(*3)−II(運転注意力モニター) [ 実用化済:大型トラック ]
白線認識カメラでセンターラインや車線区分線を検知すると共に、ステアリングやウィンカー等の操作をセンサーで検知し、蛇行率・操舵量・単調度からドライバーの注意力レベルを判断し、必要に応じて音声で注意を促す。
注意力低下判定には、ファジィ推論を導入し、充分な走行実験を重ねてドライバーの感性にあった警報タイミングを実現、例えば注意力が低下した状態で車線を逸脱すると、音声で注意を促す機能のほか、車間距離警報とも連動しており、注意力が低下していると判断した場合は早めに警報する機能も備えている。さらに、単調な運転の場合には、ゆらぎの時間間隔1/fで、爽快感のある香りを呈示し、注意力の低下を抑制する。
*3 |
MDAS: Mitsubishi Driver's Attention monitoring System |
●ディスチャージヘッドランプ [ 実用化済:大・中型トラック、大中型バス ]
ハロゲンヘッドランプに比べ、約2倍の明るさであり、また自然光に近い白色でワイドな配光エリアであるため、視認性が格段に向上する。
●ワイパー&ヒーター付ミラー [ 実用化済:大型トラック ]
ワイパー及びヒーターによりミラー表面に付着した雨滴や霜を取り除き、悪天候下での側方・後方視界を確保する。
●配光制御ヘッドランプ
ヘッドランプが照らす範囲や方向を、車速、ハンドル角、積載状況などに応じて最適に制御し、夜間の視認性を向上する。カーブ路などでは進行方向を最適に照らして視認性を大幅に改善し、安全性の向上とドライバーの運転負担軽減のほか、対向車への眩惑防止にも効果を発揮する。
●前方障害物衝突防止支援システム(情報提供/警報)
悪天候(霧、雨、吹雪)やカーブなどの見通しの悪い道路環境時に、道路インフラから送られてくる前方の障害物情報(障害物までの距離や大きさ)から衝突の危険があると判断された場合に、ドライバーに音声と表示により注意喚起し警報を行うとともに、必要に応じ自動的に補助ブレーキによる制動を行うシステムとしている。
●カーブ進入危険防止支援システム(情報提供/警報)
カーブ手前で、道路インフラから送られてくるカーブまでの距離やカーブ形状から適切な進入速度を判断し、減速の必要がある場合はドライバーに対して音声と表示により注意を促し警報を行うと共に、必要に応じて自動的に補助ブレーキによる制動を行うシステムとしている。
●INOMAT(*4)(ファジィ制御機械式オートマチックトランスミッション)
[ 実用化済:大・中型トラック、大型バス]
クラッチ操作が必要なのは発進時のみで、以降停止するまでシフトレバーをドライブレンジに入れておくだけで自動的に変速。ドライバーはクラッチやシフトレバーの操作から開放されハンドル操作に集中できるので、疲労の大幅な軽減と、より安全な運転が可能となる。また、最新のファジィ制御の導入により最適なギヤ選択が可能となり、熟練ドライバー並の、走行状況に応じたスムーズな走りも実現している。
*4 |
INOMAT:Intelligent & Innovative Mechanical Automatic Transmission |
●車間距離制御オートクルーズ
車間距離センサーとカメラを用い、前走車との車間距離を検出し適切に保持するよう自動的にブレーキを制御して減速、追従走行するため、ドライバーの運転負担を軽減する。
●イージーゴー(EZGO:坂道発進補助装置)
[ 実用化済:大・中・小型トラック、大・中・小型バス ]
坂道発進を格段に容易にするため、一時的な停車時に制動力を保持する坂道発進補助装置を採用している。
(2)事故回避技術
自動車の基本運動である、「走る・曲がる・止まる」のうち、「曲がる・止まる」が安全上重要な要素である。特にトラック・バスは質量が大きく、高重心になりがちであることから限界域での運動制御がむずかしいため、この危険な状態を回避するシステム開発にも積極的に取り組んでいる。
●車両挙動制御システム
現存のABSやASR(*5)の機能の特長を活かし、ハンドル角センサー、車輪速センサーなどの情報から各車輪の制動力を独立制御すると共に、エンジン出力の制御も行い、車両のスピンやドリフトアウト、ロールオーバーを抑制し、操縦性と安定性を向上する。
(別の試験車で開発・試験を行った為、今回のASV−2トラックには未搭載)
*5 |
ASR:Anti Spin Regulator |
(3)全自動運転技術(自動追従走行システム)
先導車の走行軌跡や操舵などのデータを、車々間通信により得た追従車が、先導車を自動追従するシステムを専用道での実用化を目指して研究開発に取り組んでいる。なお両車の相対的な位置関係を正確に把握するために、高精度GPSシステムを使用している。これらの要素技術は、今後のドライバー支援システムに応用していく予定である。
(別の試験車で開発・試験を行った為、今回のASV−2トラックには未搭載)
(4)衝突安全技術
トラック・バスは積載効率の面からキャブオーバタイプが主流であり、衝突時の乗員空間を確保することをまず基本としている。さらに乗員を保護する装置についていち早く実用化済みである。また、衝突時の加害性軽減を意識した構造についても取り組んでいる。
●フロントアンダーランプロテクタ
衝突時に小型車が前部へ潜り込むことを抑制する構造とし、加害性を軽減する。
●SRSエアバッグシステム&プリテンショナー付シートベルト
[実用化済:大・中・小型トラック、大・中・小型バス ]
前方からの強い衝撃を感知して膨らみ、ドライバーの頭部への衝撃を緩和するSRSエアバッグシステムと、衝突時にシートベルトのたわみ分を瞬時に巻き取り、乗員拘束機能を高めるプリテンショナー付シートベルトを採用している。
(5)車両基盤技術
大型トラック・バスでは、オプション機器を搭載すると30以上ものウォーニング、インジケータが表示されることになるため、ドライバーへ必要な時に必要な情報の伝達が重要になる。また表示を見たドライバーが即座に判断できるものでなければならない。これらドライバーとのヒューマンインターフェース技術および情報通信技術を利用した安全性と利便性を支える技術についても取り組んでいる。
●VOIS(*6)(多重表示&音声警報システム)[ 実用化済:大・中型トラック ]
車両情報を文字と音声で知らせる、多重表示&音声警報システムは、従来のウォーニング&インジケータランプの機能に加え、さまざまな車両情報をドライバーに文字で伝達。また必要に応じて最適なタイミングで注意を喚起する音声警報により、ウォーニングなどの見落としミスなどがないよう、より確実な情報伝達をはかる。
*6 |
VOIS:Visual and Oral Information System |
●Fuso Total Support System(運行・輸送・車両管理システム)
[実用化済:大・中・小型トラック、大・中・小型バス ]
車両に搭載したコンピューターが車両の稼働状況、運行記録、GPSによる位置情報、及び定期点検時期や故障などのメンテナンス情報を収集・集積する。メンテナンスデータとのリンクにより予防整備の効率化を図り、 路上故障の防止に役立つ。また、車両の情報は、通信業者の管理サーバへ送られ、営業所などの端末からはインターネットを通じて、車両現在地・運行状況がリアルタイムに把握でき、輸送効率化につながる。
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