バスの装備
装飾的な側面に加えて実用的な機能も兼ね備えるーーそれはインダストリアルデザインの原則とも言えるだろう。このバスに関しても、病院環境を考慮した様々なポイントに注目したい。車いす用のエレベーターは利用者が介助者とともに安心して昇降できるゆとりのある設計になっている。そして座席ごとに電源が配置してあり、人工呼吸器などが使用可能となっている。窓際のカウンターのキャビネットには、酸素ボンベが収納されており、また、自然と掴みたくなる木製の取っ手は車内での移動をさりげなくサポートする。どれも実用的で、なおかつ高いデザイン性と存在感を兼ね備えているのだ。
2023年に導入されたこのナラティブバスは、今後患者やその家族を連れた旅が予定されており、病院が取り組むナラティブの活動の一つとして皆に楽しみにされている。ところで、このバスには専任のドライバーとツアーガイドが配属されるが、制服のデザインも水戸岡氏が担当しているとのことだ。
富家院長の構想は、障害や疾病を抱えながら生活する重度慢性期の患者に、たとえ歩けなくても、せめて車椅子に乗れるようになって桜や紅葉など鮮やかな四季の移り変わりを楽しんでもらうこと。このバスから見る景色は車内のインテリアとシームレスに絡み合い、感動体験が一つの物語としてその人とその人の大切な人の心に刻まれるであろう。