経験が修理の精度やスピードを上げる 500Eへの初期衝動がビジネスに変わり、創業から12年。多くの顧客から信頼される「Das Auto Ganz」の高い技術力やトラブルへの対応力は、自身の愛車を通じて培われた。「故障箇所を診断するテスターはあるんですけど、100%正解かというと、そうではない。自分の車の故障の時はこうだったという経験が、修理の精度やスピードを上げてくれるんです」。
専門店としての課題は、生産終了から30年が過ぎて部品供給がなくなりつつあることだ。「今一番難しいのは、保安部品、例えばヘッドライト。でも、僕らも意地で探すんですよ、世界中を」。部品取り用の車はなんと8台。中村さんは供給部品の終了を知ると、在庫をすべて買い取るようにしているという。キャッシュフローには悩まされるが、どんな時も、顧客の愛車が走る姿が頭に浮かぶ。
「うちに来てくれるお客さんは、関東から西日本まで全国にいます。今、日本を走っている500のうち、48台が僕らの顧客の愛車なんです。自分も乗っているんで、自分のためにも部品は使いますしね。『この部品買うとかな、あかんやろ』って。僕の悪い癖です」
時間をかけてエンジン内部部品を組み替え、無事にエンジンがかかった時は、いまだに「興奮と安堵感で自然と鼻血が出ることもある」と笑い、どんな苦労話もとにかく楽しそうに話す。「仕事が好きですし、もう今となっては、後悔していることも何もありません。この仕事をやってよかったということだけ。趣味を仕事にすること。好きを仕事にすることも」。
せんでええ 「Das Auto Ganz」と顧客の関係性はとてもユニークで、従業員の初瀬さんも、実は元顧客だ。幼い頃からとにかくメルセデスフリークで、中村さんと知り合ったのはなんと高校生の頃。大学生の頃はアルバイトとして中村さんのもとで働き、自動車専門学校を卒業後にはメルセデス・ベンツのディーラーに勤務していたが、中村さんの右腕として「Das Auto Ganz」に迎えられた。中村さんはおどけて、初瀬さんを「うちの社長」と呼ぶ。ふたりは信頼で結ばれた師弟でありながら、同じ情熱を持った大親友にも見える。